難波裕美のひとり言

難波裕美

頌栄企画 マネージャー

難波 裕美

  • ・厚生労働省認定葬祭ディレクター
難波裕美のひとり言
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どら焼
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難波裕美のひとり言

どら焼

ご主人がお亡くなりになられ、ご遺族の方よりご連絡が入り、寝台車を病院に向かわせました。しかし急遽、病院からのご希望により、病理解剖が行われる事に なりました。その為、ご遺族も私どもも一度戻り、改めて夕方、病院でお会いする事になりました。待ち合わせの時間より早く病院に向かい、霊暗室の前まで行 くと、奥様が霊暗室の前のソファーに座っておられました。
 そして、解剖が終わるまで、一時間ほどの時間が与えられました。奥様は私にご主人のお 人柄や、お二人の思い出話を沢山して下さいました。最終的には、一時間半ほど奥様とお話する事ができました。その中で一つ、御葬儀当日が結婚記念日だと言 う事を話して下さいました。私は、結婚記念日であると言う事がとても気になり、会社に戻り、直ぐに社長に結婚記念日の話をし、私の思いを伝えました。"葬 儀が終わり火葬をしてしまったら、ご主人のお体は無くなってしまう。ご主人のお体があるうちに、何とかお二人でお祝いの時間が持てないだろうか...?私 に何か出来ないだろうか...?"と。
 葬儀の日に『おめでとうございます。』とか、お花に"祝"なんて、もしかしたら不謹慎だとご注意を頂くか もしれない...。そんな事も思いはしたのですが、私に出来る事はこれぐらいしか無いですし、迷っている時間は無いので、とにかく思いだけは伝えよう!と 思い、私は、御葬儀当日の朝早く"祝 結婚記念日"と書いたカードを添え、華やかなピンク色のお花をご自宅にお届け致しました。
私は、奥様の反応が少し怖かったのですが、思い切ってインターホンを鳴らしました。奥様が出られ『どうぞ。』とドアを開けて下さいました。私は思いを伝え、お花を奥様に渡しました。
すると、奥様は涙をポロポロ流され喜んで下さいました。私は、"あ~良かったんだ"そう思い、安心しました。

以前も書かせて頂きましたが、私は葬儀をするだけの葬儀社にはなりたくないのです。葬儀を請け負うと言うことは、御遺族の心の支えになる事でもあるのです。
私は、ひとりぼっちになってしまった奥様の事がとても気になり、数日後に訪問いたしました。"そう言えば、ご主人は〓〓デパートの〓〓どら焼きが大好きだっておっしゃってたっけ..."そう思い出したので、どら焼きを3個買って行きました。
インターホンを鳴らし、奥様がドアを開けて下さったので、『こんにちは、ご主人がお好きでしたどら焼きを買って来ました。奥様お茶をご馳走して頂けますか?』まぁなんて図々しいのでしょうか?私はそう思いながらも、思い切って口にしました。
と ころが、奥様はとても喜んで下さり、ニコニコしながら『どうぞ入って』と、私を招き入れて下さいました。『どら焼きは、ご主人と奥様と私の分です』またま た図々しい言葉です。でも、このどら焼がとても大切な時間を与えてくれたのです。御葬儀が終わり、ずっと傍に居て下さった妹さんも帰ってしまい、奥様は一 人で寂しい日々を過ごしておられたのです。そして、沢山沢山涙を流しながら、色々な思いを話して下さいました。『早く元気になって、難波さんに心配かけな いようにしなくちゃね。』最後は、笑って見送って下さいました。
沢山の御遺族の方とお話をさせて頂き、いつも感じるのは、家族でも親戚でも友達でも無い、私自身の微妙な立場が、話しやすい状態を作っているのかな~?と。
全く何も分からない人に話をしても解消しないけど、ある程度、家族構成なども分かっていると言う点もあるのかもしれないですね?
私は、御遺族に寄り添い、少しでも悲嘆した心のサポートができたら良いな...。
そう心にとめながら、日々御遺族と向かい合わせて頂いております。
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